宮前家より数時間遅い朝食は、ふたたび白っぽいものに戻っていた。

「スッキリしたらつい気持ちが緩んで、最近ではすっかり贅沢が身についちゃって」

“極濃”と書かれた牛乳を遠慮なくコップに注ぐこの瞬間、わたしは何とも言えず満たされた気持ちになる。

「“贅沢”ねえ」

“極濃”を飲むことに何の感慨も感じない啓一郎さんを、わたしはひそかに“セレブ”と呼んでいる。

「節約中はマーガリンも塗ってない激安食パンを食べてたんだけど、最近では一流メーカーの一袋156円もするパンじゃないと口に合わないの。しかもとろけるチーズを乗せるだけでは飽きたらず、シラスまで乗せる有り様」

「…………」

啓一郎さんがコップを置いたガチッていう音と、わたしがパン屑を払うパンパンという音。
やはりこの家からは情緒ある音がしない。

「ヨーグルトなんてほら! フルーツ入り! 金遣い荒くて、そのうちカード破産するかも」

「ヨーグルトで破産したら、ある意味すごいよな」

上目遣いで様子を伺っても、啓一郎さんはテレビを観ながらシラスチーズトーストを咀嚼していて、まったく気づいていないようだった。
ヨーグルトが空になり、カンッと強くテーブルに置いたら、ようやく一瞬不思議な顔をして、それでも情報番組のとれたて魚介類をその場で食べるコーナーに視線を戻してしまう。