「母親がそれとなく探りを入れてくるんだけど」

急に帰りが遅くなったり、外泊が増えたのだから、家族なら“彼女”の存在に気づいて当然だ。
思い当たることがあって、啓一郎さんのTシャツをギュッと引っ張る。

「この前『最近啓一郎が家にいないのよね』って言われたんだけど、あれって何か探られてたのかな?」

「母さんの真意はわからないけど、小花はなんて返したの?」

「『へえー、どこのネットカフェ行ってるんでしょうね』」

啓一郎さんはため息をつきながら、ゴロンと仰向けに転がった。

「……そろそろバラしたい」

「いや! ちょっと待って! まだ心の準備ができてない」

「もう半年経つし、この前ここに入るのを下山さんに見られたから、遅かれ早かれバレると思うよ」

「ええーっ! 大事な息子さんキズモノにして、いったいどんな顔で会えばいいの?」

「よく会ってるだろ。その顔で」

わたしの頬っぺたをちょっとつまんでから起き上がるので、わたしもそれに続いて身体を起こした。
そして……啓一郎さんを思い切り突き飛ばす!

「あら、おはよう。小花ちゃん」

「あはは、おはようございます~」

タイミング悪くおばさんが洗濯かごを手にベランダに出てきたところだった。
服をちゃんと着ているか一瞬で確認してから、網戸を開ける。

「今日はいい天気ねえ」

「そうですね。お布団も干せそう」

そのお布団には、ゲリラ兵かのように啓一郎さんが必死に伏せて姿を隠している。

「あ、そうだ! 昨日親戚からたくさんさくらんぼいただいたの。あとでいらっしゃい」

「さくらんぼ! 大好きです。では、またあとで伺います。失礼しまーす」

窓をきっちり閉め、カーテンも閉めたところで、ようやく啓一郎さんが身体を起こし、腕組みして睨む。

「『あとで行く』って、俺は?」

「……時間差で帰る?」

「だからもうちゃんと話した方がいいよ」

「この流れでは無理だよ! 生々しすぎる!」