初夏。
全開にしている窓からは空気を揺らす程度の風と、朝ドラの会話が入ってくる。
いつも賑やかで休む暇もなく次から次へと波乱の展開を見せるドラマだけれど、庭を渡ってくるその会話は、なぜか不思議な安心感を運んでくる。

「ほら、聞こえる」

ころんと寝返りを打って、隣で寝ていた啓一郎さんの腕の中に潜り込んだ。

「何が?」

寝起きとは思えないすっきりした声で返して、わたしの背中に手を回す。
土曜日でも朝が早い啓一郎さんにとって、この時間はすでに活動中なのかもしれない。

「朝ドラの音」

「……ああ、本当だ」

会話を届けてくる風も、緑の気配を日々強めて、夏の匂いを帯びていく。

「もっと早い時間には、お茶碗の音も聞こえるんだよ。朝ごはんのときの。去年、奨学金返還中もよく聞いてた。あの音の中に、啓一郎さんもいるんだなって」

食器の音、車のエンジン音、カーテン越しの灯り。
啓一郎さんの変わらない確かな日常は、わたしの気持ちを支えてくれた。
いつかこの庭を越えて、会いに行くんだって。

あの日々を思い出して切なくなっていたわたしを、やさしいキスが今へと呼び戻してくれた。
どの季節にあっても、触れるだけで溶けてしまいそうなくらい大好きなひと。