「すみません、勝手に包装しちゃって。忙しそうだったのでつい……」
「いや、いいよ。びっくりしたけど助かった。さすが、雑貨屋副店長は包装が早いね」
「いやいや。本は四角くて包みやすいですから。普段はもっと遅いです」
「でも懐かしいね。崎田さんがレジのこっち側にいる光景は」
「ですね。もう五年以上経ちますしね」
「店長呼びも懐かしいなあ。たまに店長って呼んでよ」
「じゃあまあ、いつか思い出したときに呼びますね」
ふたりの会話から、崎田さんが現在雑貨屋で副店長をしていて、五年以上前にこの店で働いていたということが分かった。
それならあの包装スピードも、買い取りの知識があるのも頷ける。
それに雑貨屋なんて、イベントごとに鬼のように混み合う店で働いていたら、接客にも慣れるだろう。
包装道具の片付けを終え、こちらに軽く会釈して三レジから出た崎田さんは、ガウンとバッグを身に付けて、真っ直ぐDVDコーナーへ戻って行った。
店長は少しの間崎田さんとDVDコーナーで話していたけれど、武田さんが持って来た商品の片付けがある。小走りで奥の倉庫へと入って行った。
そうしていたら、ようやく買い取りを終えた和奏ちゃんが、買い取り明細を持ってやって来た。
買い取り明細は買い取りを担当したスタッフと、別のスタッフのサインがいる。素早く自分の名字を書き入れ明細を返そうとしたら、和奏ちゃんの視線が崎田さんに向いているのに気付いた。
そして「びっくりしましたね」と。崎田さんに視線を向けたまま言う。「すごい包装スピードだったね、さすが雑貨屋副店長」と返しながら、私も崎田さんの横顔を見遣る。
「ああ、いや、それもですけど」
「なに?」
「うちの副店長から崎田さんのこと聞いてたんです。副店長曰く、崎田さんは神だって。あのピンチに駆け付けてくれたときは本当に神様に見えましたよ」
「は、神?」
「前に副店長、段ボールに入った成人漫画を盛大にぶちまけちゃったらしいんです。そしたらたまたま店に来ていた崎田さんが、嫌がる素振りもしないで、ごく普通のことみたいに手伝ってくれたらしくて」
「へぇ……」
「まあ、元店員なら成人漫画も扱い慣れているでしょうけど。恋人に成人雑誌が見つかって振られた副店長は、崎田さんは希望をくれる神様に見えたって。こんな女性もいる、絶望するのはまだ早い、って思ったらしくて」
「崎田さんって、たまに店に来てるんだ?」
「たまーに来てるみたいです。姉妹店にはよく行ってるみたいですが。武田さんとことか。やっぱり遠慮してるんですかね」
「遠慮って?」
「恋人が働いてる店に頻繁に顔を出したら、微妙な感じになるかもしれませんしね」
「ああ、そうね。私も昔、当時付き合ってた彼が働いてたカフェに通ってたら、他のスタッフに白い目で見られたわ」
「まあ、うちの店の雰囲気なら大丈夫そうな気もしますけど」
「さすがに店内でいちゃついてたら私も白い目で見るかもしれないけど」
「あはは、店長と崎田さんは店内でいちゃつかないと思いますけどね。実際さっきも普通に会話してるだけだったし」
「……え?」



