叶わぬ恋と分かれども(短編集)



 そうしているうちに、CDの傷の確認も最後の一枚を迎え、長い道のりだった、と深く息を吐く。
 お客さんに合計金額を伝えて顔を上げた、ら。さっきまで普通に傷の確認をしていたお客さんが、突然ぎろりと私を睨み、一万円札をぶっきらぼうにトレイに乗せた。

 不思議に思いながらも会計を済ませると、お客さんはもう一度私を睨みつけ、大きなビニール袋を乱暴に持って帰って行った。

 一体何だったんだ……。後ろの棚からディスクを探すのに時間がかかったからか。さらに傷の確認にも時間がかかったからか。
 いや、傷の確認中、あのお客さんは普通だった。なのに、なぜ急に……。

 こういうときに、接客業の大変さを実感する。向いていないのではないかと思ってしまう。たぶん、他のスタッフたちも同じような気持ちになっているんじゃないかと思う。
 だから結局は、崎田さんみたいに楽しそうになんて働けなくて。辞めたくなる気持ちを、店長への恋心でどうにか繋ぎ止めていた。


 もう一度ため息をつくと、店長と崎田さんの「ありがとうございました」という綺麗なユニゾンが聞こえた。どうやら長い包装が終わったらしい。

 大きな大きなビニール袋をいくつも持ったお客さんは、店長が車まで運ぶのを手伝うという申し出を丁重に断り「本当にありがとう、また来るよ」と優しい声で言って、満足そうに帰って行った。

 ふたりはお客さんが自動ドアを通るときにも綺麗なユニゾンで「ありがとうございました」を言って、ドアが閉まるまで視線を送ってから、包装に使ったあれこれの片付けを始めたのだった。