「でも忘年会に、クリスマスの包装紙でよろしいのですか?」
「うん、いいのいいの。忘年会まであと数日だし、綺麗な包装と中身に目がいくだろうから」
「本のプレゼント、良いですね。古本にも古本の良さがありますし。たまに、通販やオークションにも出ないような絶版マイナー本に出会えたり」
ここまで話すと男性客は「あ!」と大きな声を出し、早足で売り場に向かう。そして数分後、本を二冊持って戻って来た。
「これも買うから、これだけ中身が分かるように包んでもらってもいいかな」
「はい、大丈夫ですよ」
とはいえ、崎田さんはスタッフじゃないからレジは打てない。
私はCDに傷がないか一枚ずつ確認し、お客さんにも確認してもらっている最中。和奏ちゃんは未だに査定金額に悩むお客さんの対応中。後ろに並んだ男性が抱えていた段ボールはすでにカウンターに置いてあるから、受け付けだけはしたらしい。
するとちょうど店長と武田さんが、大量の段ボールを乗せた台車と共に戻って来たから、崎田さんはすかさず「レジお願いします」と手を上げた。
店員ではない崎田さんが三レジに入って包装している様子に、ふたりはぎょっとしたけれど、すぐに店長が走って来て、レジを打ち始めた。
そして会計を終えると、ふたりで包装に取りかかったのだった。
ふたりがかりのスピーディーな包装を眺めながら、男性客は再び口を開く。
「店員さんの話を聞いて思い出したんだ。彼女がこの作家の本を集めてて。でもそんなに有名な作家じゃないし、初期の作品は絶版になってて見つからないって。そういえば本棚を見て回ってるときにこの作家の本を見かけたなって。確認しに行ったらずばり、絶版になった初期作だった」
「素敵なクリスマスプレゼントができましたね」
「はい。ああ、いやいや、本来のプレゼントはちゃんと用意してるよ? 決して古本で済ませようとは思ってないよ?」
「ふふ、大丈夫です。お客様の真心は、お話を聞いていればちゃんと分かりますから。ねえ、店長?」
「うん、そうだね。それに古本も古本で良いものですよ。僕も先日、古本をプレゼントして大喜びされました。三十年くらい前の漫画、全三十巻セット」
「三十巻セット……! 置き場に困る……!」
「ええ、大喜びした二分後には、置き場がない! って悩んでました」
店長と崎田さんは手を忙しなく動かしながらも、楽しそうに雑談をしている。そんな三人を見たら、なんだか無性に羨ましくなった。と同時に、悔しくもなった。
この店で働き始めて三ヶ月。仕事もだいぶ慣れ、気持ちにも余裕ができたけれど。あんな風にお客さんと関わったことは、正直一度もない。
一日中お会計や買い取り査定や挨拶で声を出し続け、クリーニングや商品化や品出しに追われ、そんなときに「何分待たせんだ!」と怒鳴られたり、トレイがあるのにカウンターに小銭を投げ置くからあちこちに散らばったり、理不尽なクレームが入ったりするから、むしろお客さんとはあまり関わらないようにしていた。
でも、崎田さんとお客さんの話を聞いていたら、あまりにも楽しそうだったから。それができていないことが、無性に悔しくなってしまったのだ。
わたしも、そんな風になれるかな……。そうなれたら、仕事がもっと楽しくなるかな……。



