透き通るような声で「ありがとうございました」を言ったあと、崎田さんはすぐさまこちらに来て、番号札とかごいっぱいの本を引き取って行った。
 包装を頼んだ男性も、崎田さんと一緒に三レジに移動する。

 私は後ろの棚で大量のCDのディスクを探しながら、崎田さんの声に耳を傾けた。

「包装紙やリボンのご希望は」「中身は見えるようにしますか」「少々お時間をいただきますが」と。流れるように言葉を交わしていく。

 男性客も「包装紙はお任せで」「中身も見えなくていいよ」「時間は気にしないで」と返した後「包装してるの見てていい?」と尋ねる。

「構いませんよ。でも少し緊張しますね」

「いやあ、僕の前に包装頼んでたお客さんが、包装が綺麗って言ってたから気になってね」

 それは私も気になる。練習したとはいえ、私の包装はまだまだ初心者。そんな拙い包装をした商品を、お客さんに渡してしまっても良いのだろうかと、毎回不安になる。


 崎田さんはというと、包装をしながらお客さんと談笑中。
 さすがに大量にある本の包装を見ていることに飽きたのか、男性客が「これ忘年会の景品にするんだ」と雑談を始めたからだ。

 どうやら男性客は、忘年会で行うゲームの景品に、本を選んだらしい。
 景品係は毎年変わるけれど、去年のシャーペン、一昨年のハンドタオル、一昨々年のたわしと。参加賞とはいえ「まじか……」という微妙な雰囲気が漂うらしい。

 そして今年、参加賞を用意することになった男性は悩みに悩んだ。ひとつ数百円程度、という予算で、微妙な雰囲気にならないものを選ばなくてはならない。

 考え抜いた結果、古本なら予算内で済むし、種類も豊富。普段読まないジャンルの本と出合うこともできるし、これなら行ける! と思ったらしい。
 問題は包装。普通の店ならまだしも、古本屋で包装サービスをしているところは見かけない。

 そんなとき、うちの店の限られた数店舗で包装サービスをしていると聞きつけ、急いでやって来たという。

 そんな話を、やっぱり後ろの棚でCDのディスクを探しながら聞いた。

「比較的綺麗な本ばかりを選んだし、包装が適当でも良いって思ってたけど。まさかこんなに綺麗に包んでもらえるとは。アルコール消毒までしてもらって」

「当店では状態が悪すぎたり、中に書き込みがあったりするものは、申し訳ないですが買い取り不可でお返ししていますし、買い取り後売り場に出す前に消毒もしていますので、本来状態は良いんですが。プレゼント用とのことですので、さらに消毒をさせていただきます」

「へぇ、じゃあ僕の部屋にある埃がかぶった本は買い取り不可か……」

「現物を見ないと何とも。埃程度なら綺麗にできますし、日焼けや折れや汚れだけでしたら、安価となりますが買い取らせていただきます。一度お持ちいただければ、査定だけでもさせていただきますよ」

 そして包装しながら話す崎田さんは、スタッフよりもスタッフらしかった。
 買い取りやクリーニングのことも詳しいし、言っていることも正しい。それに完璧だ。

 武田さんの彼女とばかり思っていたけれど、もしかしたら元スタッフなのかもしれない。