そんなことを考えていたら、私がいるレジにお客さんがやって来た。

 購入した数本のオールドゲームソフトを包装してほしいと頼まれ、それに応じて番号札を渡す、と。

 コンビニ売りのコミックを山ほど抱えたお客さんがやって来た。
 五十円のもの、百円のもの、百五十円のものと分けていると、その後ろに、かごに大量の本を詰め込んだお客さんが並ぶ。さらにCDを何枚も持ったお客さんまで。

 これはまずい。本は値段と種類に分けて金額をレジに打ち込めばいいけれど、ゲームソフトやCDやDVDはそういうわけにはいかない。中身を抜いているから、ケースの品番を確認して裏の棚からディスクを探さなければならない。
 でもアルファベットや数字で分けられているそれは、簡単に見つからないときもある。スタッフのミスで別の棚に入っていることもある。そして探し出したディスクに傷があれば、研磨をしなくてはならない。

 助けを求めようと、隣の一レジにいる和奏ちゃんを見たけれど、ちょうど買い取り査定を終え、お客さんに査定の詳細を説明しているところだった。しかもお客さんは査定額が納得できないのか、ひとつひとつその金額がついた理由を聞いている。その後ろに、今店に入って来たばかりの男性が、重そうな段ボールを抱え直しながら並んだところだ。すぐに次の買い取り査定が始まるだろう。

 店長もまだ戻らない。私は少し焦りながら、必死にレジを打った。
 が。先ほど包装を頼んだお客さんは、レジの横に立ったまま、腕時計と私を交互に何度も見ている。少し苛ついているのかもしれない。

 そうしているうちに、かごに大量の本を詰め込んだお客さんが「この本全部ひとつずつ包装してもらえるかな。あと領収書お願い」というから、もうパニック状態。


 店長に助けを求めたくてきょろきょろと店内を見回すと、DVDコーナーにいた女性――崎田さんと目が合った。

 崎田さんは穏やかな目で私と並んだお客さんたちを見たあと、DVDのケースを棚に戻し、すたすたとレジカウンターに入って来る。
 そして「包装します」と告げ、私の傍にあった包装待ちのオールドゲームソフトを手に取る。

 バッグを置き、素早くガウンを脱ぐと、そのまま三レジの、さっき店長が使って広げっ放しだった包装紙を使って、包装していった。
 レジ横で時間を気にしながら待っていた男性も、崎田さんに「こちらにどうぞ」と促されて移動し「上手ですねぇ」と笑顔を見せた。

 崎田さんは「恐れ入ります」と優しい笑顔を返しながらも、背後の棚からさっとリボンが入った箱を取り「どうぞ、お好きな色をお選びください」という気遣いも忘れない。

「まさか古本屋でこんなに綺麗に包装してもらえるとは思わなかったなぁ」「ふふ、そう言っていただけると嬉しいです」なんて会話が聞こえてきた。

 どんなに綺麗な包装なのか、覗き見したかったけれど、今はレジ打ちで忙しい。

 やっと大量の商品の会計を済ませると、包装を終えた崎田さんが笑顔でお客さんを見送るところだった。
 さっきまで少し苛ついていたように見えた男性は、すっかり笑顔になって、ゆっくりとした足取りで帰って行った。