電車が僕たちの家の最寄り駅まで着くと、僕は漸く住み慣れた町へと戻ってきたという事実にほっと息を漏らした。


ソウェルの手を引いて、改札を通り、家までの道を日傘をさして歩いていると、叫び声が聞こえた。


反射的に、そちらへと目を向けると、そこには線路に脚を取られて動けない女性と、その少し先には自動運転の、列車。


女は何かをわめき散らして必死に足を動かし、赤い髪を振り乱して助けを求めるようにホームへと手を伸ばした。


しかしホームに居る人間は、電車と彼女を見比べるだけで、誰も線路へと下りようとはしない。


無理もないだろう、失敗すれば自分も死んでしまうような状況で、見知らぬ女を助けるなんて、無謀すぎる。



「止まらないわね」



やって来た電車はその女の前で大きくなっていき、次の瞬間、おぞましい叫び声をかき消すほどのおぞましい破壊音を残し、電車は過ぎ去っていった。


残されたその世界は恐ろしいほどの無音の世界で、誰かが耐え切れずに漏らした嘔吐(えず)く声をキッカケに、一人が悲鳴をあげ、それに共鳴するようにその場に居た人間が思い思いの叫び声を上げた。


線路には女の足だったものが突き刺さっていて、その先、身体が付いていたはずの部分はごっそりと無くなり、線路の上を転々と女の肉が細切れになって落ちている。


残りの身体は胸から腹を斜めに引き裂かれていて、その切り口からは普段目にすることは滅多にない内臓がここぞとばかりに、自らを主張し、その大きな穴から顔を覗かせ景色を眺めていた。


滑(ぬめ)りを湛えた、その赤よりも深い色合いの内臓は車輪に弾き潰されたのだろうか、傷などないはずだったその身体に沢山の傷跡を作り、引き裂かれた胃からは消化した食べ物だった物がドロリと垂れ流れている。