落ち着いた閑静な住宅地の裏路地。
先ほどの危機的状況をなんとも思わずに、ソウェルはそんなことを言って、地面に座り込む僕の頭を撫でた。
「誰の所為だよ、ソウェル……」
怒る気にもなれずに、僕はゼェゼェと肩で息を漏らしながら日陰になっているこの裏路地で、暫く休憩を取った。
久しぶりに走ってなのか、足がガクガクと震えている。
「シーファが約束破ったからでしょう?」
悪びれなく答えるソウェルに、僕は盛大な溜息を吐き出す。
この子は甘やかして育てすぎたのだろうか。
「お水を買ってきてあげる」
そういって立ち上がり、駆け出そうとするソウェルの手を掴んで、僕は首を横に振った。
「いらないから、離れていかないで」
「…子どもね」
子どもに子どもといわれて僕のプライドは少なからず傷ついたけれど、何も言わずに僕はまた大きく息をついた。
またソウェルが居なくなるのは、色々と耐えられない。
それにもう走れそうもない。
ソウェルは僕の帽子を外すとそれで仰いでくれた。
髪が少し汗で濡れて、気持ち悪い。汗をかくなんていつ振りだろうか。
「シーファ見て、海が見えるわ」
裏路地の、壁に囲まれた、その隙間から青い海が見えてソウェルは嬉しそうに声を上げた。
僕は立ち上がる体力もないので、ソウェルの声に耳を傾けている。
「シーファが歩けるようになるまで待っててあげる」
「ありがとう、ソウェル」
僕はその言葉に存分に甘えて、太陽の当たらない心地よい裏路地で暫くの間意識を失った。
その間ずっと、ソウェルは僕の手を握り締めてくれていた。
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