20m先には、おぞましい光景が広がり、そこで撃たれることを待たされている人々の中には嗚咽をもらす者や、胃の中のものを吐き出すものがいた。


僕は慌ててその観衆の中、声のした方へと向かった。



「惨め…?俺が惨めだと言いたいのか!俺は惨めなんかじゃない!バカにするな!俺はなんだって出来るんだ、あんな女一人殺すことさえワケないんだ!お前だって殺せる!殺せるんだぞ!俺を誰だと思っているんだ!!」



「殺せるものなら、好きにすればいいわ」



その瞬間、そのピンクのドレスは宙に浮いて、まるで飛んだようにふわりと漂い、消えた。



「シーファ!」



僕の小脇に抱えられ、軽く空を飛んだ感覚のソウェルは、自分が僕に連れ攫われていることに気付けば声を上げた。


少し驚いたような、まだ少し許せていないような、それでも少し、嬉しそうに。



「ソウェル、君はどうしてこんなに無茶をしたがるんだ」



後ろから銃声が聞こえる。


先ほど、競争を持ちかけていた男の襟首を掴んで、その男を盾にした。


その弾は見事、男の腹を貫通し、ギャ!と男は声を上げ、思わず持っていた拳銃の引き金を引いた。


その先に居たのは、競争に同意した、男。


背中を貫通したその弾は、心臓を貫いて、撃たれた男は何の抵抗も出来ないままに倒れこんだ。


その場は一時騒然とし、僕はその人込みの中を掻き分けて逃げ出した。


ただでさえ太陽が眩しくてしんどいと言うのに、日傘もささずに僕は走っている。普段なら考えられないことだ。


とりあえず裏路地を縫うように走って、暫く走った後に僕の体力が限界になって、漸くソウェルを下ろした時にはあの異様な街から抜けて隣町に出ていた。



「シーファ凄い!ちゃんと太陽の下を歩けたじゃない!」



走ってたけどね。