「ももかちゃん…」
私は教室にポツンと出来た空席を見つめる。

朝から職員室は大騒ぎだ。
それは、先生達だけだけではなく、この学校の生徒達もだ。

何者かによって開けられた昇降口。
真っ黒に焦げた廊下の床。
そして、僅かに隙間のある一年二組の窓。

みんな、不審者が入り込んだのだと思って騒いでいるようだった。そして、この廊下の焦げは放火だと。

「えー、静かに!」
クラスの喧騒を断ち切るように、年配の男の先生が入ってきた。
先生は、気分が悪そうに見える。
こんなことがあったから神経を使っているのかもしれない。


「昨夜、この学校に不審者が侵入したようだ!怪しいものを見つけたという人は今すぐ先生のところへ!」

先生はそれだけ言うと、急ぎ足で教室を出ていった。
怪しいものを目撃したと言うものは誰一人いなかった。
まあ、見られてても困るんだけど。

「何か物騒な事になったな」
後ろの席のないとが、私の背中に向かって独り言のように呟く。
私は正直反応したくなかったが、無視したくないという気持ちが勝り、振り向く。

「でも、放火だとしたら何で何にもない廊下を焼いたんだろうな」
ないとが不思議そうに頭を傾ける。
「うん、何でだろうね」
私はボロが出ないようにするため、あまり話さないようにした。

「案外、この学校の生徒だったりして」
「何で分かった………。いや、何でそう思ったの?」
私は慌てて言い直す。
横目でみるとないとが不審そうにこちらを見ていた。

お前、何か知ってるのか?そう言いたそうな顔だ。

「私は何も知らないよ」
眉間にシワを寄せるないとの目を見ながら、なるべく表情や言葉にボロが出ないように神経を張り巡らせる。

「ないとこそ、何か知ってるの?」
たまらず、私は意味のない質問をする。
自分の声が震えているのが分かった。


「俺は何にも知らねーよ」
ないとは静かに言った。
私たちの間に気まずい沈黙が降りた。