このままではないとが危ない。
私は頭で考えるより先に体を動かしていた。

「ちょっとあんたたち、やめなさいよ!」

男子達は私を睨み、全員で近寄ってきた。
「おい、てめーはなんだ!?ぶっ殺されてーのか!?」
そう言いながら男子達は私との距離を詰める。
彼らの声が狭い倉庫に響き渡って耳が痛い。

私が耳の痛みに怯んでいると、一番体格の良い男子が私のポニーテールにした長い髪を掴んだ。
「ちょ…!」
私は振りほどこうとしたが全然動けない。

その時初めて気がついた。
先生を呼ぶ方が賢かったということに。
自分の置かれた環境に。

私の力では到底敵わない。
仮にこいつを倒せても相手はまだたくさんいる。
「覚悟しろよぉぉぉぉ!!」
拳がこちらに向かってくる。
私は目を瞑り殴られる覚悟をした。
しざるを得なかった。
私はバカだった。


しかし、どれだけ待っても拳がやって来ない。
私は恐る恐る目を開いた。

目の前には男子がいたはずなのに、いつの間にか少女が立っていた。
少女は男子の腕を掴んでいる。

男子は口を開け、目が点というような間抜け顔をしていた。
おそらく私もそんな顔をしていただろう。

「ださ!自分がモテないからってモテるやつを恨んだりいじめたりする事を考えるしか脳がないの?」
そう言い少女は挑発的な笑みを浮かべた。

男子達は見事にその挑発に乗っかり顔を真っ赤にして少女に殴りかかった。

少女はそれらをすべてかわし、男子達を蹴り倒し、ないとを掴んでいた残りの二人を持ち上げ、激しく地面に叩きつけた。

私の思考は完全停止していた。
理解出来ない。
強い人が突然現れて驚きだ。

少女は倒れているないとの腕を掴み叱咤する。

「いつまでもこんな汚い場所に寝てんじゃねーよ。早く立て!」
少女はないとを引っ張った。
しかし、ないとは少女を振り払うと走って倉庫の出口へ向かった。

「待って!」
私はないとの腕を掴む。
私は力強くないとの腕を離れないように掴み続けた。
ないとは思ったよりも非力で私の手から逃れられなかった。

無理だと思ったのかないとはシャツを脱ぐ。
ないとは出口から脱出してしまった。

今追いかければ間に合うかも知れない。

しかし、私にはそんな勇気はなかった。

私は…今…。