塊は口を大きく開けると真っ赤な炎を吐き出した。
私はないとを突き飛ばす。

なんとか炎に当たることは免れたが、代わりに私の右腕が火傷を負った。
「う…うう」
あまりの熱さと痛みに呻き声がこぼれた。

「青木すずね…。」
ないとが私の名前を呟いた。いや、呼んでいたのかもしれない。

「ちくしょう!邪魔しないでよすずね!」
こまりは再び塊に命令すると、今度は標的を私に切り替えた。
紅蓮の炎がこちらに向かってくる。
もう私は死を覚悟していた。
お父さん、お母さんごめんなさい。私、もう…。
私は目を瞑り、身を屈めた。その時…


熱くなるはずの私の体が冷たくなっていくのを感じた。
「え?なにこれ?」
私の右手からは冷たい水が吹き出していた。
その水が塊が出した炎を消していく。
私は最初何が起こっているのか分からなかった。
しかし、その水は止まるとこなく炎をすべて消してしまった。

「は、はい?」
私はまだ理解が追い付かない。
私の手から水が出て、その水が炎を消した…?
信じられなかった。
夢でも見てるんじゃないかと思ったが、この腕のリアルな痛みが現実であるとこを物語っていた。
あの水は一体…?


「その水が君の能力さ。」
背後から声が聞こえた。
私は困惑した頭のまま、後ろを振り返る。
そこには私の担任の長野先生が立っていた。
いつの間に来たのだろうか?私が気付かなかっただけだろうか?

長野先生は私に駆け寄るとしゃがんで目線を合わせる。
「君は化け物の一族だ。君の一族は水を操る力を持つ。
さっき手から水が出たのもそのためだ。君、ここに来たのは体に電気が通るみたいな痛みを感じたからだろ?」
長野先生は私に優しく問いかける。
その優しさは私には届かなかった。

「何それ!」
私は怒りなのか悲しみなのか分からない感情を感じた。

「なんなのそれ!私、普通の人間として十二年間生きてきて、それで突然人間じゃない?ふざけんな!ないとが頭おかしいんじゃないの?全部あんたらの妄想じゃないの?この世化け物がいるなんて馬鹿馬鹿しい。ましてや、私が化け物?バカにしないで!!」
私は早口でまくし立てた。
自分でも何が伝えたいのか分からなかった。
でも、こんなの納得出来ない。
私は人間で…

その時、さっきの水が頭を過る。
あれは、まさか本当に…?
視界が歪んでいく。


「すずね。」
ないとは私の目の前まで近寄ってきた。
「何よ?」
私の今の声はかなり怒りを含んでいたと思う。
「お前、事実を受け止めるって言ったよな?俺が本当にいいんだなと聞いた時、いいって言ったよな?」
ないとは指摘は的を獲ていた。
確かに、確かにそうだけど…

「そんなのあんまりだ!」
私は大声で反論する。
夜の町の響く声はもう私には聞こえない。

「確かにいいって言ったよ。でも私はこんなのが知りたかったわけじゃ…」
「認めろ、すずね。これが君の真実だ。」
その声は長野先生の声だった。
長野先生は真面目な顔つきで私を見ていた。

「でも、そんなの…信じたくないよ…。」
私は蚊の泣くような声で訴えた。
どれだけ反抗しても、事実は変えられない。