お昼休みになっても彼の顔が頭から離れなかった。
今までずっとこまりが近くにいたから出来るだけ見ないようにしていた。
見ると不愉快だったから。

チャイムがなり、生徒達が帰っていく。
私は一人帰路についた。
一人で帰るのもだいぶなれてきた。
正門前の桜並木は緑の葉で彩られていた。
私が前に進めたように季節も前に進んでいる。

ふと前を向くと見覚えのある後ろ姿が目にうつる。
一人で歩いているその後ろ姿に声をかける。
美しい顔がこちらを向いた。

大川ないとはこちらを向くと、「何?」と私に尋ねる。
その声は苛立ちを含んでいた。
私は覚悟を決めて質問をぶつける。
「ねぇ、大川ないとくんは中田こまりと付き合ってるの?」
私の声は震えていた。そしてぎこちなかった。
「俺は知らねー。あいつが近寄ってきたんだ。」
彼はめんどくさそうに答えた。
私は今すぐ逃げたくなったが、どうしても逃げるわけにはいかない。あのことを聞き出すまでは。

バクバクとうるさい心臓に気付かないふりをして、私は声を絞り出す。
「あのさ、真剣に答えてほしいの。」
そう言い彼の顔を見つめる。私は目を反らさない。
彼の怒りが少し和らいだ気がした。
今なら真剣に聞いてくれそうだ。
「私のこと、中学生になる前から知ってた?」
私は彼の目を見つめたまま問い詰める。
私は不審に思われていないか不安になったが、彼の表情は意外にも怒りや警戒はなかった。


「なぜそう思った?」
彼は無表情のまま私に聞く。
その顔から感情は読み取れない。
「お前の親に聞けば?」
彼はそう言い捨てると早足で去っていく。
背中がついてくるなと言っていた。



彼の姿が見えなくなると私はため息を吐いた。
これは思ったよりも複雑そうだ。
頭の中が彼との関係のことに支配されていく。
私の耳に外の音は届かない。