私は走って公園を立ち去り、家を目指した。
家に入り閉めた玄関のドアがバタンと大きな音を立てたが気にならなかった。

「すずね!」母が大きな音を聞き心配したのか玄関まで走ってきた。
青木すずね。生まれたときからずっと聞いている私の名前だ。

「すずね、あんたどうしたの?」母が私の顔を心配そうに覗きこむ。
私の顔を見た母は更に心配そうな顔をして私にティッシュを差し出した。
知らないうちに私は泣いていたようだ。

「何?学校で何かあったの?」母は私の体を揺する。
そんな母の優しさに私は安心し、その場に崩れ落ちた。

「最近こまりが私を無視するの…。」
ほんとは母には知られたくなかったが、話し出せばもう止まらなかった。
「入学式の時に好きな人が出来たのがきっと原因なのよ。」次々と言葉が溢れ出す。
母は相づちを打ちながら真剣に聞いてくれている。
私の話が終わると、
「こまりちゃんが?」母は信じられないと言った感じで私に尋ねた。
仕方がない。こまりと私はずっと友達でケンカしたこともなかったのだから。

やがて母は、私に一つ質問しても良いかと聞いていた。
私は首を縦に振る。
「その男子の名前は何?」
これが母の質問だった。
私にはなぜこの質問をするのか分からなかったが、黙る理由もないので「大川ないと」と答えた。


その時、母の表情が変わった。
優しさは消え、その顔は青かった。
母は何かを言いたそうにしていたが、結局私に「辛かったね」とだけ言った。