「分かった。じゃあ、先輩の好きな和食作って待ってるね」

「嬉しいな。光希の料理、食べたかったんだ」

額がくっつきそうな程近い距離と二人にしか聞こえない小さな声。周りに気取られないように注意しての会話だけど、お互いを見つめる視線が優しくて愛しさに溢れてて。些細な事なんて気にならないくらい、幸せだ。

「……じゃあ、若松課長にお礼を言っておいて」

言葉が出なくなった後もしばらく見つめあったあと、時間切れだと眉を下げた岡澤が少し大きな声を出した。オフィスでこちらの様子を伺っている人向けだろう。

「はい。それでは失礼します」

光希もそれに呼応してハッキリした声で返事をしてドアに向かって体を翻した。

「あ、ゴミ付いてるよ」

その瞬間、腕を取られて軽く引っ張られた。そして額に感じる柔らかな温かさ。

驚きに目を見開く光希を面白そうに見やって、岡澤がドアを開ける。

「ごめんね、気のせいだったみたい」