「いえ、大丈夫です。それよりこちらこそ、突然すみませんでした」

「いえ、構いませんが。お約束は金曜日のはずだったのに、急にどうしたんですか？」

岡澤が親しげに話しかけた相手が若く美しい女性だったせいで、エントランスの空気が騒めく。幾人かは目の前の光景についてヒソヒソと囁きあっている。

光希も息を詰め、驚きに見開いたままの瞳で立ち尽くしていた。

岡澤が、最愛の恋人が目の前で自分以外の女性と親しげに話している。しかも相手は自分の友人なのだ。

無意識に後退った光希の横を藤末が友人と通り過ぎて行く。

「何あれ！」

「いかにもお嬢様って感じだねー。しかも若くない？なんか学生っぽいし」

「箱入りの金持ちのお嬢様なんて、いかにも親が決めた縁談じゃない」