光希も自分のズルさを自覚しながら、大人しく心地よい時間に甘えていた。


初めはただの照れだった。
それまで男性と付き合った事のなかった光希にとって、彼氏になったからと呼び方も変えるのは恥ずかしくてハードルが高かっただけなのだ。だから、何かタイミングがあったら甘ったるく名前で呼んだりするのだろう、と密かに夢想していた。

でも岡澤に影響されるがまま、彼とと同じ会社に就職が決まり、いかに自分が彼に溺れているかを自覚した時、そんな夢を見るのはやめた。

だってこんなに溺れていたら、フラれた時に辛すぎる!

正直、光希は自分に自信がないわけでも、卑屈になっているわけでもない。地味は地味なりに存在意義はあるしとおもっているし、勉強だって仕事だって壊滅的に出来ないわけでもない。いや、割と出来る方だ。

でもそれは光希単体で見た時の話だ。完璧な容姿と中身を持つ岡澤の隣に立つ人間としての評価ではない。

すらりとした肢体に、長い睫毛に縁取られた大きな眼やシャープな顎のライン、色気のある厚めの唇。
「可愛い」と「格好いい」だった形容詞に、年齢を重ねるにつれ「色気がある」「頼り甲斐がある」などオトナの男の魅力を示すモノがプラスされていく岡澤の隣に立つには恐れ多すぎる。