「そう、だったんだ……」

「俺の事情を知らない清花さんに直接断るのも心苦しいし、でも親と話し合う前に彼女、会社に来ちゃうしさ。お断りの意思は親を通じてするのが礼儀だから、とりあえず俺に結婚の意思はないアピールだけはしたんだ」

光希の脳裏に、土曜日に清花が見せた複雑な顔が蘇る。お見合いに岡澤本人の同意がなかった事に気付いたからだったのだろう。それでも、好きな人との縁談を進めたいと願った想いに切なくなる。

「どうもさ、小笠原会長はちょくちょく社内での俺の情報を集めさせていたみたいなんだ。そろそろいい歳なのに、ずっと恋人の存在はいないって事になってるから心配になったって親は言ってたよ」

「じゃあ、私が交際をオープンにしてたら、こんな事にはならなかった……?」

「いや、俺も親に何にも言ってなかったから。光希だけのせいじゃないよ」