うすぼんやりとした空間を歩いていく。
風は感じられない。
通路はときどき膨らんで、小部屋の形になる。
右にも左にも別の通路がつながっている。
おれは何も考えず、法則もなく、適当に選んだほうへと歩いた。
いきなり、足音が聞こえた。そして声が聞こえた。
「あっ、やっぱり! 長江先輩! わぁっ、生きてたんですね!」
女の子の肉声だ。
鈴蘭だった。横合いの通路から駆けてくる。
反射的に笑ってみせたおれの頬は、その形のまま引きつった。
鈴蘭が血まみれだったせいだ。
制服のブレザーはボタンが取れて、前がはだけられている。
白いはずのブラウスは赤黒く染まっていた。
血は、鈴蘭が流したものではなかった。
鈴蘭が至極《しごく》大事そうに胸に抱いた生首の血だ。



