でも、血の守りは完璧じゃねぇんだ。
憎しみに火を点けてチカラを加速させた今、おれの言葉は、声は、血のつながりなんていう貧弱な盾をぶち抜くことくらい、わけもない。
あとちょっと。もう少し。
これが済んだら、おれはぶっ倒れていいから。いっそ死んでもいいから。
最後の一押し、限界を超えたい。
【ナイフを拾えッ!】
油の切れたからくり人形みたいに、ぎしぎしと、親父の肉体と精神が軋む。
崩れ落ちそうなガタガタな動きで、親父はナイフに手を伸ばす。
ナイフの柄をつかむ。持ち上げる。
超えたいんだよ。
チカラの限界も。血の呪縛も。
しぶとい抵抗に手を焼いている。
おれの大声の号令《コマンド》の下で、悲鳴が懸命に繰り返されている。
やめてくれ、助けてくれって、安っぽくて薄っぺらい懇願《こんがん》が聞こえる。
聞きたくねーから。



