親父が不意に強い目をして、おれを見つめた。
「理仁、親孝行をしなさい。父を裏切って母を見殺しにするつもりか?」
親父の目には光があって、まっすぐのぞき込むようにおれを見ていた。
真正面から、おれはまなざしを受け止めてしまった。
遠近感は狂わなかった。
こいつ正気なんだなって、いきなり実感した。
正気なのにこんなにトチ狂ってんだなって、すげー絶望的な現実を、おれは初めてハッキリと認めた。
「あんたに朱獣珠を渡して、そのへんの誰かを殺して代償にして、おかあさんを快復させるのが、おれのやるべき親孝行なのかよ?」
「母の命と、言葉もしゃべれない動物や見も知らぬ他人の命と、どちらを優先させたい? 選ぶ権利は、理仁、おまえにある」
「やめろ」



