亀裂の向こうに、見覚えのある車がのぞけた。
黒い艶をまとった上等な外車、シュッツガルドの馬をあしらったエンブレム。
蛍光LEDの光に浮かび上がるナンバーは、六月生まれでふたご座の母親の誕生日。
親父の車だ。
あれに最後に乗ったのは、三年近く前かな。
母親がちゃんと動いてたころの、母親のバースデーディナー。
タイミングが重なってしまって、おれと親父だけあの車でレストランに向かうことになって。
煥は、警戒しつつも躊躇《ちゅうちょ》なく、シャッターの亀裂をくぐり抜けた。
おれが続く。
「あっきー、ちょい待ち」
「何だ?」
「おれが先に行くから。ヤバいときはフォローよろしく」
「わかった」
踏み出したおれの足音が響く。
シャッターを越えてくるみんなの足音が折り重なる。



