DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―



重苦しい沈黙が落ちかけて。


あっ、と鈴蘭が声を上げた。



「煥先輩、腕、血が出てます」



まくった袖からのぞく左の前腕に、赤く裂けた傷がある。明らかに刃物の傷だ。


煥は傷口をのぞき込むと、舌を出して血を舐めた。



「やっぱりやられてたか。拳の内側にナイフ仕込んでるやつがいたからな」


「やだ、その傷、ずいぶんひどいじゃないですか! わたしが治しますから」



パッと飛び出した鈴蘭は、煥に抱き付きそうな勢いだった。


煥がちょっとのけぞる。


鈴蘭は気にせず、煥の肘のあたりをつかまえた。



「お、おい」


「じっとしててください」



鈴蘭は煥の傷口に手をかざした。


鈴蘭の小さな手では覆い切れないほどの赤色は、次の瞬間、淡い青色の光に包まれた。


鈴蘭の手のひらから、やわやわと光が染み出している。