詞を書くのは煥だって、文徳に聞いた。


いつも心を堅く閉ざしてるみたいな、あんなやつが、なんて無防備な言葉を編むんだ。



しなやかで澄んだ声が歌い上げる言葉が、一つひとつハッキリ刺さってくる。



煥の喉が操るのは、耳で聞き取る声だけじゃなくて、桁違いの立体感と力感と情感を載せた思念そのものだ。


手で触れることができそうなくらい、煥の歌声は、目に見えない形をしっかりと持っている。



嫉妬するよ、ほんと。


もしも煥がおれのチカラを使えるんなら、世界の一つや二つ、簡単に征服できるんだろうな。



間奏で顔を上げた煥は、マイクのそばを離れて、文徳や亜美や牛富や雄を振り返る。


うなずき合うメンバーの顔に笑みが浮かんだ。


オーディエンスに背中を向けた煥も、きっと笑ったんだろう。



こっちに向き直ったときにはもう、煥は詞の世界に戻っていた。


空っぽな表情を装って胸の痛みを隠すような、切なそうな顔だ。