おれは煥を指差した。
白い長袖Tシャツの胸には、殴り書き風にプリントされた尖ったメッセージ
――Stick it to the man、つまり「権力に反旗をひるがえせ」。
ズボンは履き替えずに制服のままで、足元も革靴だ。
うつむきがちで、目元は銀色の前髪に隠れてしまっている。
煥は何も言わず、オーディエンスのほうを向かずに真ん中に立った。
ひどく静かでおとなしそうに見えた。
オーディエンスの期待の歓声に呑まれて押し潰されちゃうんじゃないかって心配になるほど、孤独っぽく透き通った存在感だった。
文徳たちが奏でる音楽が、ふっと表情を変えた。
インストのイントロが鳴りやんで、唄の一曲目が始まる。
まっすぐな響きの軽快なアップテンポ。走り出したくなるような雰囲気は、文徳が書く曲のメインエッセンスだ。
ああ、こいつの作る曲調やっぱ好きだな、と思って。



