しばらく軽音部室で過ごしてたら、ポケットの中でスマホが震えた。


姉貴からのメッセージだった。



〈十分後くらいに通話、できる?〉



おれは「OK」と返信して、文徳《ふみのり》に一声掛けた。



「ちょい用事。今日んとこは帰るよ」


「そうか。何かあったら、連絡しろよ」


「何事もないことを祈るけどね。駅前でライヴするの、明日だっけ?」


「ああ。暇ある? 聴きに来てもらえると、こっちとしても張り切れるんだけど」


「行く行く。たぶん、姉貴も行きたがると思うよ~」



じゃあまた明日、って。軽く右手を挙げるだけのありふれた挨拶。


こんな空気は久しぶりだ。



軽音部室を出て、廊下の角を曲がって、いきなりだ。



女の子がおれにぶつかった。


それがけっこうな勢いだったから、女の子はふらついた挙句に転んだ。