Project Novel

「…先輩」
「ん?」
「手、つなご」

少し間をあけて、先輩はわたしの手を握った。

「お前、手ぇ冷た」
「末端冷え性だから」
「だから待たなくていいって。風邪ひくぞ?」
「…待つ」

多分先輩は、頑なに待ち続けるわたしの理由に気付いてる。

でも先輩は優しいから。
優しいから、きっとこの手を離せない。

握ってって、寒いからって、そう言えばきっと握ってくれる。


でも、冬が終わったら?

秋が過ぎて、冬が終わって、春がきて。
先輩がこの学校からいなくなって、わたしのいない、あの人と一緒の大学に行っちゃったら?

それでもわたしの、隣にいてくれる?


「…ねぇ、先輩」


「ん?」、前を向いたまま、先輩は返事をした。
そんな横顔を、わたしは見つめた。


多分、先輩はわたしの隣にいてくれる。

先輩は優しいから。だからわたしを、きっと傷つけない。

自分が傷ついても、わたしを傷つけない。


…ねぇ、先輩。


もしもわたしが、この手を離したら。

そうしたら先輩は、幸せになれますか?



「…なんでもない」