…「先輩、受験いけそう?」
川沿いの土手を歩きながら、わたしは見上げて聞いた。
「うん、まぁね。今さらじたばたしなきゃいけない程、俺バカじゃないし」
「あははっ、じゃあ何で補講なんか出てるの?」
「気休め気休め」
夕日を背に先輩はそう言ったけど、わたしはそうじゃないことを知っていた。
でもそれを言ったらダメだから。だからわたしは、気付かないふりをする。
「お前、寒かっただろ?」
「え?」
「鼻が赤くなってる」
「うそ」、わたしが鼻を触ると、先輩は可笑しそうに笑って、「ほら」と自分のマフラーを差し出した。
くるっとわたしの首に巻く。
先輩の香水が、廊下ですれ違う度何度も振り向いた香りが、冷えたわたしの全身を包む。
…ねぇ、先輩。



