数人と連れ立って奥の部屋に消えた社長を見送り、大きな溜め息が漏れた。
怖くはないけど、ライオンの王様を前にしたら誰だって気を抜けなくなると思う。

「大丈夫か明里」

はっとして顔を上げれば、亮ちゃんが目の前に立っていた。眸に気遣いの色が滲んで見える。甘えて心配かけてばかりじゃダメ。気持ちを入れ替えて微笑み返す。

「うん、大丈夫」

「・・・さっきのはお前を晒し者にしたかった訳じゃない。特別だと思わせておく方が明里の安全が保障できるからな。・・・社長の計らいだ」

そうだったんだ。『大事な女』って言ってくれてたけど、本当に大事にしてもらえてるなって。実感して胸が温かくなった。

「退屈だろうが、あと少し我慢してくれ。津田に送らせる」

亮ちゃんとは一緒に帰れないんだって残念さが、顔に出ていたかも知れない。隣りに腰掛け、困ったように細く笑んだ顔がわたしの肩を抱き寄せた。

「・・・仕事だ、これも」

「・・・・・・うん」

次にいつ逢えるのかも約束できない、声も聴けない。・・・分かってるけど寂しい。どうしようもなく。でもぜんぶ覚悟して選んだのはわたし。もっと強くならなくちゃ。

亮ちゃんの胸元にキュっとすがって。今はこの温もりを少しでも憶えておきたかった。