隣り合ってソファに座り、インスタントとは風味も味わいも違う、コクのある珈琲に口を付けた亮ちゃんは。マグカップをテーブルに置くと、おもむろに体を傾けこっちを向いた。深い眼差しがわたしを捉えて。どくん、と大きく心臓が波打つ。

「明里」

凛とした声。その先を訊きたい・・・聴きたくない。せめぎ合う感情に追い詰められて、思わず目を逸らした。

「・・・俺を見ろ」

伸ばされた手がわたしの顎の下にかかり掴まえられる。
頭ではそうしなくちゃって思うのに。目も耳もぜんぶを塞ぎたくなるくらいに怖くて。

「背中に誓ってお前から逃げたりはしない。・・・今度は」

亮ちゃんの言葉に一瞬でココロが震えた。
それが未来を信じていい言葉なら。

きゅっと目を瞑り、今度はわたしも逃げずに亮ちゃんを見つめた刹那に。寄せられた顔がもっと間近になって。唇に吐息が重なっていた。啄ばんでは離れ、また啄ばまれる。いつの間にか頭の後ろをやんわり押さえられて動けない。唇をなぞった舌先が入り込んで、わたしの口の中をしなやかに征服していく。角度を変えては余すところなく、いっぱいに埋め尽くされた。やっと離された時には酸素を欲しがって喘ぐくらいに。

理性も境界があやふやになりかけ、潤む瞳で亮ちゃんを見つめる。水底みたいに見通せない闇色の眼差しに吸い込まれながら。

「・・・・・・明里と、明里の人生を背負ってやることは出来ない」

そう聴こえた瞬間は、絶望の奈落に突き落とされた気がして。

「お前が望むようには・・・だ」

落ち着いた低い声が追って来た時。亮ちゃんが何を言いたいのかをぜんぶ受け止めきる覚悟で、真っ直ぐに目を合わせた。