連れて来てくれた中国料理のお店で、絶品だと勧めてくれたモチモチでジューシーな熱々の水餃子に舌鼓を打ち。それから。

「帰りたいなら引き留めはしない。・・・明里の好きにしていい」

亮ちゃんに言われて首を横に振った。




コンビニに寄ってもらい、一緒に少しだけ買い物をしてマンションに戻る。
新しい部屋は、可動式の仕切りで1LDKにもワンフロアにもなるタイプで。前と変わらずに必要最低限の物しか置いていない殺風景さに、胸がきゅっと締め付けられた。

リビングスペースにソファとテーブル、それにテレビとラック。奥のプライベートスペースにベッドとスタンドライトが置かれてるだけ。キッチンも、コーヒーマシンと電子レンジそれに冷蔵庫があるくらいで、フライパンも調味料も相変わらず見当たらない。

またいつでもいなくなれるように・・・? 置き去りにされたあの朝が、頭の片隅を過ぎる。

「珈琲でいいか? ・・・ビールくらいならあるぞ」

「あ・・・ううん。珈琲でいい」

脱いだコートをハンガーにかけさせてもらいながら、上の空の返事になったかもしれない。キッチンに立つ、ラフな格好をした亮ちゃんの後ろ姿に心許なさが募っていた。