ほとんど土地勘のない市街を車は走り抜け、七時を回る前にあるマンションに着いた。ビルトインの3台分しかないスペースのひとつにバックで駐車すると、亮ちゃんはわたしを促して降りる。

エントランスに回って中に入る前に建物を見上げれば、10階あるか無いかの縦長で。どうやらここは単身者向けのよう。それでも築浅らしくオートロックや防犯カメラも完備で、大理石風の床も壁も高級感があり、エレガントな雰囲気が漂っていた。

模様の描かれた銀色の扉のエレベーターに乗り、荷物を持ってくれてる亮ちゃんは6階のボタンを押す。

「・・・このマンションはグランド・グローバルが賃貸経営している不動産の一つだ。セキュリティも会社のを使ってるからな、見た目よりはすごいぞ」

わたしが目を丸くすると、口角を上げた顔をのぞかせた。

やがて軽い制動とともに到着し、そこから伸びる通路の突き当りのドアの前まで亮ちゃんの後について歩く。605と印字されたステンレスの表札プレートが、アイスブルーの壁に見えた。

「腹も空いただろう? 近くに美味い店がある」

部屋に寄ったのはわたしの荷物を置く為だったらしい。上がらずにそのままUターンでもう一度下まで降り、今度は歩きで。自然に亮ちゃんが手を引いてくれて、胸の中がじんわり温かくなる。

もう迷子になったりしないのに。いつもこうやって昔からわたしを守ってくれてるんだよね・・・・・・。

並んでいると身長差で表情が良く見えない。じっと見上げながら歩いてたら、いきなり亮ちゃんの方に引き寄せられた。歩道を前から歩いてきた二人連れとすれ違うのに、避けたんだと気が付く。

「・・・あとで好きなだけ眺めさせてやる。今はちゃんと前を見て歩け」

見下ろす亮ちゃんが深々と溜め息を吐いた。
言われたら急に恥ずかしくなって。でもなんだか一年前まで戻れたみたいで。嬉しくて切なくって、泣きそうになって困った。