駅には向かわず亮ちゃんは、交差点を渡った時間貸しの立体駐車場にわたしを連れ、前とは違う黒のスポーツセダンの助手席に乗るよう促す。
訊きたいことは沢山あった。逸る気持ちを懸命に抑えて。走り出してしばらくしてから、自分で小さく口火を切った。

「・・・・・・亮ちゃんどうして・・・?」

サングラスを外していた横顔はやっぱり感情が読めない。ややあって静かな声が返った。

「・・・ちゃんと明里と話をしろと彼女に言われた」

彼女。真下社長の妹の瑠衣子さん。心臓に何かがのめり込んだみたいな重い痛み。
わたしが亮ちゃんを想っているのは、分かってしまってるだろうから。婚約者としてきちんと清算することを彼女が望んだんだろう。わざわざわたしの前に現れたのは瑠衣子さんの為。

・・・現実を思い知らされる。何を言われても亮ちゃんを好きな気持ちは変えられない。押し付けるつもりなんてない、思い続けることだけは許して欲しい。それだけ。

俯き加減に視線を落として、わたしは亮ちゃんの言葉を覚悟しながら待つ。躰を強張らせ、息を詰めて。

「・・・津田が挨拶に行ったそうだな」

「・・・・・・・・・うん」

飛んできた矢が思わない方向からだったから僅かに動揺して。知られているなら、嘘を吐かなくて済むことだけは・・・ちょっと掬われる。

「結婚するつもりなのか、津田と」

わたしは答えなかった。・・・しないとも言わなかった。

「俺は明里に幸せになって欲しいだけだ。・・・俺といても、危険に巻き込んで守りきれる保障もない。俺にとっては何より大事なんだ、明里が」

言い聞かせるように亮ちゃんは淡々と続けた。