揺らぎのない深い闇色の眸の中にわたしがいて。亮ちゃんは逸らすことなく、静かにその後を続けた。

「・・・もう明里が俺を心配する必要はない。今の俺は幼馴染だったってだけの、明里とはなんの関係もない裏社会の人間だ。俺は俺の道を行く。お前は会社を辞めて、ふつうの男と結婚しろ。・・・それが俺の願いだ」

最後の願い。
別々の人を愛して、別々の人生を歩んで。
これが本当の別れだと、真っ直ぐに眼差しで貫かれて。
破けた心臓から血が流れ落ちた。

愛してるって。
だから幸せになってくれって。

言葉の背中合わせに、亮ちゃんはわたしに想いを伝えて。
手を振り払おうとしてた。

「・・・なら手塚は俺がもらいますよ、日下さん」

亮ちゃんに届く言葉はもうひと欠片もない気がして。自分から奈落の底に落ちようとした、その時だった。隣りから聴こえた声に耳を疑った。驚きに目を見張り、信じられないように津田さんを見やる。

「この女の希望どおり、口を割ったら殺してやるのが俺の役目なんでね。拾って好きにしても構わんでしょう」

億劫そうにくしゃりと前髪を掻き上げた彼は。ヤマトさんが置いてくれたコーヒーカップに口を付け、ソーサーに戻してから遠慮のない視線を亮ちゃんにぶつけ返していた。

「・・・お前」

眉を顰め、一瞬で気配を鋭くした亮ちゃんに動じる様子もなく。津田さんはおもむろに、何を考えているのか全く感情の見えない顔をこっちに振り向けた。

「今日からあんたの飼い主は俺だ。手塚明里」