秘密を守れなかったら命で償う。あの約束で、自分を真下社長に縛っておくこと。社長が何を考えてわたしをどうするんだとしても。そうしておかないといけない気がして。

 津田さんは、全く見通せない黒いガラスのような眼差しでわたしを見据えたあと。テーブルに頬杖をついて怪訝そうに溜め息を漏らす。

「なんでそうムキになる? 手塚ひとりが日下さんに必死になったって、どうにもならねーだろ。分かってるよな? 婚約するってのも、完全に自分からあんたを突き離す為だってことぐらい」

「・・・・・・分かってます」

 俯き加減に目を逸らした。

 わたしをどんなに傷付けてでも亮ちゃんは『来るな』って。
 わたしを守るために大きな壁で道を塞いで。引き返せって。

 わたしを愛してくれてるからなんだってことぐらい分かってる。

 津田さんには憐れにさえ見えてるかも知れない。別れを告げられても未練がましく何にすがろうとしてるのかって。
 そんなのは構わない。わたしが諦めて離れちゃいけない。・・・どうしてもその思いが消せない。漠然と警告灯が点滅してる。亮ちゃんとグランド・グローバルで再会してからずっと。

「わたしは・・・亮ちゃんを独りにしたくないんです。・・・わたしが無くなったら、亮ちゃんは自分を簡単に捨てちゃう気がする。亮ちゃんの部屋には何も置いてなかった、いつ自分がいなくなってもいいみたいに・・・。そんな風に思って欲しくない、だからわたしが」

 コバルトブルーのテーブルクロスを見つめながら言葉を探す。
 
「わたしは亮ちゃんの足枷にならないと・・・駄目なんです」