だからと言って手離しで喜べることなのか。それもよく分からない。背を向けた亮ちゃんの気持ちを、わたしが踏みにじる真似は出来ない。なにか。・・・・・・どうしたら。

 考えごとにふけって、電車が少し傾(かし)いだのを。大きな揺れでもなかったのに不意にバランスを崩してよろめく。と。次の瞬間には肩をがっしりと掴まえられて、津田さんの胸元に抱え込まれていた。 

「あの・・・っ」

 驚いて小さく声を漏らす。

「・・・着くまで大人しくしてろ」

 頭上で低い声が聴こえた。ふらふらと危なっかしく思われたらしい。
 
 ・・・前に亮ちゃんと電車で偶然会った時も。こんな風に抱き留めてくれたのが蘇った。守られてるみたいで安心できて。どきどきしてた。このまま電車が走り続けて欲しいって。夢見心地で・・・シアワセだった。そんなことが幸せだった。

 せめて帰りを待つだけでもいい。独りで生きようとしないで、その背中にただ寄り添わせて欲しかった。亮ちゃんといることだけが、わたしの幸せだから。お父さんやナオたちが願う幸せとは違ってもわたしは。
 
 亮ちゃんを選ぶって・・・決めてたのに・・・・・・。

 込み上げた想いがどうしようもなく膨れる。涙栓の留め金をあっけなく押し上げて。外れた途端、涙が落ちた。津田さんの胸に顔を寄せているから周りは気付かない。ゴーゴーと唸る車輪音が掻き消してくれる。わたしが殺す嗚咽も。

 肩を抱く彼の手に力が籠って、もっと強く抱き込まれたから。津田さんにだけ隠しきれなかった・・・・・・。