順番待ちをしてお手洗いを出たあと、やっぱり少し外の空気を吸おうかと居酒屋の外に出た。
 今年のお店も、飲食店がフロアごとに別れたビルの中のひとつ。ホールにはエレベーターと、端に階段が見えた。

 冷えた夜気に包まれ、コートを着ていない身じゃ長居は出来そうにない。バッグの中からスマホを取り出し、画面をチェックしたらすぐ戻るつもりだった。

「・・・勝手にウロウロするな、小動物」

 入り口が開く音がして顔を上げた瞬間。間近でチャコールグレーのスーツとえんじ色のネクタイが目に飛び込んで。驚いてもっと上を向くと、津田さんの顔がそこにあった。
 
「俺の目が届く場所に大人しくいろ。いちいち探すのは面倒なんだよ」
 
 不機嫌そうに目を眇める彼。
 
「・・・・・・探したんですか?」

 思わずきょとんとして返す。だって津田さんの役目はもう終わってるのに。

「いいから戻れよ。・・・帰りは送ってやる」

「えっ? いえっ、大丈」

 だいじょうぶです。って断る間もなく手を引かれて店の中へ。そのまま席に戻って、津田さんの隣りに座らされた。周囲にそう思わせているとは言え、こんなあからさまなのって。唖然として表情のない横顔を見やったけど一瞥されただけだった。

 これってまた噂に尾ひれがつくんじゃ・・・。海よりも深い溜め息を胸の中で逃す。
 向かいに座るどこの課か憶えがない男性社員さんの、驚愕の眼差しに晒されながら。置物のように時間をやり過ごそうと力無く決心したのだった・・・。