『ずっと亮ちゃんが好き』
 
 わたしは最後にそれだけを言って、答えを訊かずに車を降りた。亮ちゃんが何も云わないのは分かっていた。
 笑いたかったけど。感情を押し殺して堪えた眼差しに見つめられて。泣き顔しか・・・残せなかった。


 「さよなら」は、言いたくなかった。 




 
 一人になって泣くだけ泣いて。水分がぜんぶ無くなって、爪先まで乾ききった砂で出来てるみたいだった。
 
 朝起きて。普通のフリで、いつも通りにナオと家を出て。ともすればボロボロと崩れて無くなりそうだから。不透明な膜を張って自分も誤魔化した。・・・考えるのが怖かった。
 
 

 初野さんの「課長がさぁ」で始まる愚痴も社内の噂話も。素通りしていくけど、見た目はいつもの手塚明里なはず。

「んー鉄板餃子とぉ、梅酒のソーダ割り! 手塚さんはナニ頼むー?」

 店員さんを呼んで追加オーダーしていた彼女が、メニューを差し出しながら笑顔を振り向ける。

 飲んでも味が分からないカクテルをもう一杯頼んで。わたしは楽しそうな顔のお面を付け、何も感じていない心で笑っていた。