廊下に上がる手前のたたきに男物の黒い革靴が一足。どくん。と躰中に胸の鼓動が響き渡った。
 急いでショートブーツを脱ぎ、ろくに揃えもしないでリビングに繋がるドアを開け放つ。

「・・・亮ちゃんっっ」

 考える前に飛び出した自分の声が静寂を突き破った。部屋の真ん中に佇むシルエットに迷いもなく駆け寄って、勢いのまま胸元にすがりつく。

「よかった・・・っっ、やっと逢えた、亮ちゃんっ・・・!」

「明里・・・・・・」

 声。触れてる体。ほんもの。待ち続けてた大好きな人。信じて待ってた。亮ちゃんは必ず帰ってきてくれるって・・・!

「・・・あいたかった、ずっと・・・っ」

 心の底からほっとして、糸が解けて切れたように。決壊してどっと涙が溢れた。

「りょう、ちゃぁん・・・」


 子供みたいに泣きじゃくるわたしの頭を大きな掌が柔らかく撫でた。
 黙って何も云わず、涙が終わるまでずっと。
 芯まで染み込むような安心する温もりが。そこにあった。