君に心を奪われて




私は家から走って出て行った。とある湖に向かって。


もうすぐ雨が降りそうだけど気にしない。


湖は暗く、誰も居ない。……自殺のチャンスだ。


湖の前に行くと、雨が降ってきた。かなり激しいので心が折れた。通り雨だろうか。


走って雨宿り出来るところへ向かう。雨で濡れるのは嫌だから。


小さな小屋があったので、入ることにした。


中は暗くて何も見えない。雨が止むまで待とうとするか。


「誰だ……」


暗くて何も見えない。話しかけてきたのは、男性だろうか。


「すみません、雨宿りさせてもらってます」


とりあえず、頭を下げる。人の家に上がるのは申し訳ない気分だ。


「暗いから電気つけるか」


男性が明かりをつけた瞬間、私は驚きで声も出なかった。


「君って……」


相手を驚いている。でも私はそれ以上に驚いている。


「団長さん……?」


そこに居たのは、白軍の団長さんだった。やはり、容姿がかっこよくて惹かれてしまいそうだ。


「そう、俺は白軍の団長の加藤翼だ。君の名前は?」


「本村花菜です」


「花菜、よろしく。ここは俺の秘密基地だよ」


それを聞くと、もっと申し訳なくなってきた。血の気が引いていくような気がした。


「でも、ここに秘密基地があるのは内緒な?バレると大変なことになるんだ」


「はい……」


緊張でさらに顔が固まっていく。無表情過ぎるのは酷いと思うけど、笑顔を取り繕うことが出来ない。


「いつも無表情だよな。もっと心から笑えよ。作り笑いじゃなくてさ」


「先輩みたいに笑えませんよ……」


私は世界一の嫌われ者だと突き付けられたあの日から笑えずにいる。それでも笑顔を繕うにも限界がきた。


「俺のことは先輩扱いしないで。翼って呼んで?あと、敬語はなし」


私は圧倒されながらも頷いた。すると、先輩……じゃなくて翼は、私に微笑んでくれた。


「ピッピッピー!!」


なぜか知らないが、翼は急に笛を吹いた。というか、いつから持っていたんだろう。


「せっ……翼は笛が好きなの?」


「はっ!?ただ遊んでるだけだ」


「そうだよね……」


「ピー!!」


急にまた、翼は笛で大きな音を出す。耳が痛いよ。


「笑えって!何かあったか知らねぇけど、もっと笑えよ。心から!」


全力でジャンプしながらしつこく言ってくる翼に私は笑っていた。


「ほら、笑えたじゃん……」


「本当だ……」


邪魔者扱いされる日から笑えずに居たけど、ようやく心から笑えた。繕ってもいない自然な笑顔だ。


「もうこんな時間だ。俺が送るよ」


「大丈夫だよ……」


「女子を一人で歩かせるのは嫌だからね」


私は翼の言葉に甘えて、送ってもらうことになった。


歩きながらいろんな話をした。趣味とか部活のこととか、受験とか……話してて楽しかった。


家の前に来ると、悲しさが溢れ出す。明日があるから大丈夫だ。


「じゃあな、花菜。また明日」


「またね!」


楽しかった。だけど、すぐに会いたくなる。明日の練習で会えるはずなのに、こんなにも会いたくなる。


なぜだかわからないけど、幸せで胸がいっぱいだった。