私は手術室の前にある椅子に座っていた。ただ呆然とその扉を眺めていた。



何でこんなことになったのだろうか。


君が私の存在を知らなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。


最近は行かなくなった秘密基地。あそこで私達が出会ってなければ、私の人生は最悪のままだろうか。


あの痛々しい雨が降っていなければ、私は本当に死んでしまっていたかもしれない。


生まれてなければ、こんな幸せを知ることは無かった。


もしも、君が本当に死んでしまったらどうなるのだろうか。私は今度こそ本当に自殺してしまうだろう。


君に出会っていたとしても、この想いを隠して片想いをするだけで終わったかもしれない。そっちの方がよほどマシだったかもしれない。だけど、君と付き合えたから良かったんだ。


君と付き合ってなければ、この愛をお互いに知ることは無かった。


君の存在がこんなにも私の中で膨らんでいく。それほど大切な存在だったんだ。


今ここで消えてしまったら、茜先輩が思うまた別のツボにハマってしまうかもしれない。いや、茜先輩は大切な翼を失って後悔するかもしれない。


誰かが死んだ時、そうやって誰もが後悔するんだ。ああすれば良かったとか、そんなことを嘆いたって意味が無いはずだ。


もう死んでしまったら、話すことも触れ合うことさえ出来なくなる。そんなのは嫌だ。まだ死んでほしくない。



「花菜……いや、本村さん……」


私はその声で我に返った。振り向くと、そこには風間くんが居た。かなり息が荒れていて、急いで走ってきた様子だった。


「先輩は……?」


私は風間くんの問いに首を横に振った。翼はまだ手術室から出て居ないのだ。


突然、風間くんは私を抱き締めた。少し荒れた吐息と鼻水をすする音が聞こえる。泣いているのだろうか。


「ごめん……縁起が悪いかもしれないけど、ちょっとだけこのままで……」


本当にこの人は私のことが好きなんだと思う。きっと、風間くんは心が綺麗な人だ。


手術室と書かれた電灯が消え、気付いた風間くんが私から離れた。


扉から呼吸器を着けてストレッチャーに乗せられた翼が運ばれて行く。私は立ち上がったが、駆け寄ることは出来なかった。


風間くんも立ち上がり、隣で私の頭を撫でてくれる。


一気に涙が溢れてきた。大切な人とこんな早くに失いたくない。大好きな君に死んでほしくない。


私はゆっくりと重い足を上げ、歩いてその場から立ち去った。