昼休みも何事も無く終わり、私は翼と一緒に帰っていた。今日は早帰りということもあって周りにはたくさんの人が歩いていた。
「花菜、元気ないけど大丈夫?」
私は小さく頷いた。翼にはいじめのことなんか言えない。言ったら本当に殺されてしまいそうだから。
あの手紙が嘘の言葉だと願っていたい。本当に私は殺されてしまうのだろうか。
信号が青になるのを翼と待っていた時だった。後ろから誰かに押され、車が迫っている時に私は前に押し倒れそうになる。
「花菜、危ない!」
翼がそう言って、私を強く押した。たまたま目の前に居た風間くんに受け止められた。後ろを振り向いて、私は言葉を失った。
道路一面に赤い液体が流れ落ちている。君の香りと血飛沫が発する特有の鉄の匂いが混ざって吐き気がした。
「翼!」
「加藤先輩!」
風間くんと二人で駆け寄っても倒れたままだ。本当に消えてしまうの……?
風間くんが持参していた携帯で救急車を呼んでいる。本当は携帯を持参することは校則違反だが、考える暇も無く私は倒れた翼を前にして動けずに居た。
反対車線には茜先輩が目を見開いて立っているのが見えた。私を押した犯人はきっと茜先輩だったのだろう。
救急車が来た。幸い病院がすぐ近いところにあった。私はサイレンの音を聞き流していた。
「誰か一緒に行きますか?」
救命隊員さんがそう言った。隣に居る風間くんが私の背中を押した。
「行ってこい。花菜の大切な彼氏だろ?」
私はその言葉に頷いた後、急いで救急車に乗り込んだ。
隊員さんが忙しそうに動いている中、私は苦しそうな顔をしている翼の顔を見ることも出来ずに俯いていた。



