次の日。玄関に行くと、雑巾と手紙が下駄箱の中にぐちゃぐちゃに入っていた。


今日は翼が朝から忙しくて居ない。だから、少しホッとした。いじめられていることを知られたくないから。


教室に入ると、男の子が必死に私の机の落書きを消してくれていた。


「あっ、あの……」


「酷いよな、いじめなんてさ」


彼は私に向かって微笑み、自分の席へ戻って行った。同じクラスに居るのにも関わらず、彼の名前を知らないなんて私は大馬鹿者だろう。


体育の授業を終えると、教科書が全部入っている鞄が消えていた。私は自分の席の前に座り込んだ。


「誰だよ……隠したヤツは誰だよ!?」


朝の時に机の落書きを消してくれた彼が大声でそう言い放った。


「知らねぇよ。鞄を隠してまで嫌いじゃねぇよ」


男子が口々にそう言い出した。もう、何が起きているのか分からない。


「大丈夫?」


彼は私の目の前に来て、そう聞いてきた。私が「ありがとう」と言うと、彼は静かに微笑んだ。


「俺の貸してやるよ。昼休みに俺が探しに行くから」


それだと、彼に迷惑が掛かってしまう。断ろうとしたら、彼は自分の席に向かっていた。そして、私に教科書を渡してきた。


「えっ、でも……」


「いいから」


彼は素っ気なくそう言って、自分の席へ戻ってしまった。


もらったのは、今日の授業する教科全てだった。すごく申し訳なく感じた。


彼が次の授業の先生に教科書を忘れて怒られていたのを見て、胸が苦しくなった。すごく申し訳なかった。





給食を食べ終え、昼休みになった。


「本村さん。探しに行こう。でも、バラバラで行った方がいいよね?」


「えっ?」


「本村さんの彼氏さんって、けっこうヤキモチ焼く人だよね?」


確かに翼はこんな私を愛してくれている。それは嬉しいけど、すごいヤキモチ焼くらしいから先生と居るだけでかなり大変だった気がする。


「やっぱり、俺が探しに行ってくるよ」


「えっ、待って……!」


彼は先に走って行った。私は彼を追いかけるのは諦めて、自分で探しに行くことにした。


「花菜ー!」


廊下から走って来る大好きな人。笑顔が太陽のように眩しくて、それもまた愛しい。


「花菜、忙しくてごめんな!」


「ううん。平気だよ」


「良かった……」


翼は私にニコッと笑った。胸が高鳴る。やっぱり、私は翼が大好きなんだ。


「花菜、中庭に行かないか?」


「えっ?あっ、うん。いいよ」


私は翼と手を繋いで、中庭へ向かう。あの人が必死に走ってるところを見て、私は翼の手を強く握った。


「花菜、どうした?中庭までもう少しだからな」


いじめられているなんて貴方には言えない。私のために頑張ってくれている君にはすごく感謝しているのに、私は貴方と遊んでばかりで本当に申し訳ない。


中庭に着くと、私達はベンチに座った。秋の風が少し冷たく感じる。


ごめんね。本当はすごく辛いの。今日はもう貴方にすがっていいですか?


私は翼に身を寄せた。すると、彼はニコリと微笑んだ。


「今日は甘えん坊さんだなぁ。もう、仕方ないなぁ」


翼は私を抱き締めてくれた。声を上げて泣きたくなったけど、必死に涙を堪えた。貴方には無理な心配をさせたくないから。


ごめんね。どうしても、今日は貴方に身を委ねたかったの。君が大好きだけど、あの人のことも少し引っ掛かる。


翼と別れて教室に戻ると、彼が私の席に座って寝ていた。机の横を見ると、私の鞄が掛けてあった。かなり黒くなってしまっているのも仕方ないか。


突然、彼は体をゆっくりと起こして、私を見て微笑んだ。


「見つかったよ。寝ちゃってごめんね」


「あっ、いいよ。ありがとう」


そういえば、私はこの人の名前を知らない。聞いてみようかな。


「ねぇ、名前はなんて言うの?」


「……俺は、風間祥也(かざましょうや)だ」


「風間くんか……よろしくね」


「ああ。それじゃ、またな」


風間くんは自分の席へ戻って行った。なんか、男友達を作ったのは嬉しいけど、翼には申し訳ない。せっかく友達だと思うから仲良くしよう。