翼side
『うるせぇんだよ!!』
最近、父さんに殴られることが多くなった。
俺は怖くて、小さい頃に父さんと一緒に作った秘密基地に隠れることが多くなった。
久しぶりに家に帰ると、父さんが顔を真っ赤にして怒るんだ。
「どこ行ってたんだ?何してんだか聞いてんだよ!!」
父さんに殴られるのはもう嫌だ。誰か、助けて。もう死にたい。
そう思いながら、また秘密基地に隠れていた。
雨の音がすると、誰かが入ってきた。父さんじゃありませんようにと願いながら、警戒心アリアリで聞いたんだ。
「すみません、雨宿りさせてもらってます」
女の子の声が聞こえた。俺が居たのに驚いたのか、慌てているような感じに思えた。真っ暗で顔が見えない。
電気をつけると、ポニーテールをしているスタイルのいい女の子が居た。
「君って……」
この子、どこかで見た気がする。いつも応援練習で無表情な二年生の子だったような……。
「団長さん……?」
彼女はかなり驚いた顔をしていた。やっぱり、軍の子だった。
「本村花菜です」
敬語で言うということは、この子は後輩なのか。
「笑えって!!」
俺が大袈裟にジャンプしながら急かすと、花菜は眩しい笑顔で笑ってくれた。太陽みたいで目が眩むほどだった。
なぜか心臓が音を大きく立てている。どうしてだろうか。
俺は花菜を送りに行った。その間、俺らは他愛ない話をしていた。
俺は花菜を送った後、自分の家へ帰ろうと思った。なぜか、さっきより足が重くなる。
家に着くと、母さんが笑顔で迎えてくれた。母さんは俺の苦しみを知ってくれてるのか?
「今日は何してたの?お父さんに言わないから教えて」
「……秘密基地に居たら、可愛い女の子に出会った」
「そう……良かったわ。いい人に出会えたのね」
母さんは俺の肩を優しく撫でた。周りを見ると、玄関には父さんの靴が無かった。
「あの人ね、出て行ったの。子供は邪魔だと言って……」
母さんはその場で泣き崩れていた。
俺のせいで父さんが出て行った。母さんのことを愛していたのかさえわからないけど、母さんは怖い父さんでも愛していたと思う。
母さんが泣いているのを見て、思ったんだ。
――好きなヤツを泣かすなよ?
花菜を泣かせたくない。俺が幸せにしてやる。
早く君に会いたいな。