千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

「私で発散するって言ったくせに…」


良夜が宿屋を出た後、布団を被ってぶつくさ文句を言っていた美月は、横になったと同時にうとうとしてしまっていたものの、良夜への不満を募らせていた。


昨晩は雨のように背中に口付けを受けて、このまま抱かれてしまうかもと思った位だったが――良夜は自制を利かせてそれ以上のことはしてこなかった。

気持ちを確認された時は、同じ想いを抱いていたと知ってどれだけ嬉しかったことか。

例え次期当主であったとしても…今この瞬間だけは独り占めしているという優越感に包まれて嬉しくて仕方なかったのに。


「私が頑なだから…?」


待っている男が居ると始終良夜に訴えかけて身体を許さなかった。

それでもう呆れられてしまったのかと思うと怖くてたまらなくて、道中良夜が不機嫌なのも気になって声をかけられずにいたらこんなことに。


「だって…私…どうしたらいいのよ…」


もう良夜に惚れていると言ってもいい――その位の自覚はある。

求められていて、それに応えたいと思うのに、心のどこかで待っている男は本当に良夜なのかという疑問もあった。

だからこそ、全てを委ねるには早計なのかもしれないと思ってしまって未だ身を委ねられずにいて、良夜はそれに対して呆れたのかもしれない。


「遊郭なんて…ひどいわ…」


遊び人なのは分かっていたが、いざそれを面と向かって言われると――悔しくて仕方がなかった。

身体を与えれば良夜を縛れるのか――そう考えたものの、それは違うと魂が叫んでいた。


――自分は妻にはなれない。

そう打ち明けたのは、家柄も悪ければ鬼頭家には相応しくないと自身が知っているから。


「第一妻として求められていないものね」


欲張りすぎる我が身を悔いて、目を閉じた。