妖特製の酒でも酔うことがないから、人が作った酒で酔えるわけがない。

それでも酔ったような気分になるのは――傍に好いた女が居るからだ。

夕餉を食べ終わった後風呂に入った美月からは湯上がりの良い匂いがしていて牙の疼きを止められない良夜はひたすら量を飲んでいた。


「良夜様、飲みすぎでは?」


「こんなの水と変わらない。そういえば言ってなかったが、雨竜に関係する者と戦う羽目になったらお前は避難するんだぞ。丸呑みにされたくなければそうしてくれ」


「分かりました」


美味しそうに串団子を頬張っていた美月の口の端にたれがついているのを見つけた良夜が、指で拭ってやろうと手を伸ばした。

何かされるのではと少し身を引いて身構えた美月の吊った美しい目は――拒絶よりも期待に滲んだ色を浮かべていた。

まんざらではない――

好意を持たれている、と感じたと同時に己を止めるのをやめた良夜は、顔を近付けて口の端についたたれをぺろりと舐め取った。


「ちょ…良夜様…」


「お前が挑発するからだ。…目を閉じろ」


ふるふると身体が震える美月を抱き寄せて膝に乗せると、覆い被さるようにして深く唇を重ねた。

相変わらず吸い付くようなその感触と味に頭がおかしくなりそうになった良夜は、音を立てながら床に押し倒した。

だが帯を外そうとした時美月の抵抗に遭い、背中を向けられてしまってむっとした。


「挑発しておいてその態度はなんだ」


「挑発なんてしていません!身体は許しませんよ。…今の所は」


最後にぼそりと呟いたその言葉に内心狂喜乱舞した良夜は、のしかかるようにして美月の耳元で囁いた。


「…今の所は?」


「に、二度はもう言いません」


白いうなじ――何度噛みつきたいと思ったことか。

襟元をぐいっと開かせた良夜は、肩口まではだけさせると雨のような口付けを降らせて美月を再び震わせた。


自分の行為で美月が感じている――

思わず息を荒げそうになって先に進もうとする己をなんとか律しながら、早く美月に心を開いてほしいと願いながら唇の痕を刻み続けた。