美月が店を見て回りながら人と会話をして楽しそうにしている姿を見ていると、ほっこりした。

美月と同様自分にも出会わなければならない女が居ると自覚しているものの――美月に惚れていると気付いてからは、そんなことも考えないようになっていた。


「…美月の待っている男に嫉妬するこの心はどうすれば晴れるんだ…」


『くくくっ、小僧…貴様はいつになれば気付くのやら…』


「こら、勝手に喋るな。お前はなんなんだ、そうやって含みのある言い方をされるのは俺は好きじゃない」


父から借りた天叢雲を片時も離さず握っていた良夜が叱ると、天叢雲は深いため息をついて鍔をかちかち鳴らせた。


『早く我を抜いてみろ。なぜ我を抜かない?』


「お前は認めた主でなければ相手を呪い殺すと親父から聞いている。俺を殺したいのか?」


『ふむ、我の試練に耐えられぬと言っているのだな。なんと矜持の低い男よ』


むっとした良夜が睨みつけると、天叢雲は神妙な面持ちの声で良夜を驚かせた。


『小僧…我が力を貸してやるからひとつ頼みを聞いてくれ』


「なんだ?」


訊きかけた時、肌襦袢などを買い込んだ美月が店から出てきたため、天叢雲は沈黙してしまった。


「どうしました?」


「いや、なんでもない。じゃあ宿に戻ろう」


美月の手を引いて宿に戻った良夜は、何度か天叢雲に話しかけたものの沈黙したまま答えようとしない天叢雲を何度も小突いていた。

そうしているうちに夕暮れになり、部屋には夕餉が運ばれて来て美月は嬉しそうに膳を覗き込んでいた。


「美味しそうですね…今夜はお酌をしてあげてもいいですよ」


「ん、じゃあそうしてもらうか」


盃を差し出すと、美月はしおらしく酒を注いでどこか様子のおかしい良夜を上目遣いに見ていたが、敢えて訊かなかった。

でしゃばる女はもしかしたら好きじゃないかもしれない――

女心が働いて、酒を飲み干した良夜の盃に何度も酒を注ぎながらその美貌に密かに酔いしれていた。