良夜と美月は人里に足を踏み入れるなり皆の注目を集めてしまっていた。

目も潰れそうなほどの美男美女はどう考えても人ではなく、だがふたりとも人好きのする笑みを浮かべているため、敵意を感じられなかった人々は声をかけられずにいた。


「意外と大きな町ですね」


「ここに来るのは俺もはじめてだが、宿屋もあれば食事処もあるし、あれは妓楼じゃないか?」


「…妓楼に行くのは勝手ですが、私が寝てからにして下さいね」


「行かない。遊びに来たんじゃないし、お前で発散する」


「…今おかしなことを言いませんでした?」


「いや、別におかしなことは言ってない」


いつものやりとりをして宿屋に着いた良夜は、入り口の暖簾を潜って店主に声をかけた。


「一晩泊まりたいんだが」


「え…!あ、あの…おかしなことをお聞きしますが…」


「俺たちは妖の夫婦だが、悪さはしないと約束する。それに部屋から出ないことも約束する」


――そこまで確約をすれば大抵は引き下がってくれる。

初老の店主は少し悩んだものの、身なりが綺麗でしかも恐らくかなり上級の妖であることを悟ると、宿帳を差し出した。


「良かったな、泊めてもらえるようだ」


ひと月は軽く泊まれるほどの金が入った小袋を店主に握らせると、店主は顔面蒼白になって一番上等な部屋に通してくれた。


「雨竜と狼は大丈夫でしょうか」


「雨竜はともかく狼はかなり強いから大丈夫だろう。一旦部屋に行った後町を見て回ろう」


常日頃から人への興味が絶えず、けれど里から出ることを禁じられていた美月はかねてより憧れていた人との触れ合いに飢えていた。


「あの…人と言葉を交わしてもいいでしょうか」


「好きにしたらいい。お前のように美しい女と話せるんだから悪い気はしないだろう」


そう言いつつも美月の手をしっかり握った良夜は、色目を使って来る男が居れば殺してやると意気込みながら豪華な部屋に行って荷物を置くと、町を見て回った。